介 護 保 険 に お け る 財 政 安 定 化 基 金 を 適 切 な 基 金 規 模 に 保 つ た
め 、 都 道 府 県 が 基 金 の 一 部 を 拠 出 者 に 返 還 す る こ と が 適 切 と
判 断 し た 場 合 に 、 基 金 規 模 を 縮 小 で き る よ う な 制 度 に 改 め る
よ う 厚 生 労 働 大 臣 に 対 し て 改 善 の 処 置 を 要 求 し た も の に つ い
ての報告書( 要旨)
平
成
2
0
年
5
月
1 制度の概要
介護保険の財政安定化基金(以下「安定化基金」という。)は、介護保険法(平成9年
法律第123号)に基づき、都道府県が設置するもので、管内の市町村が通常の努力を行っ
てもなお生じる第1号保険料の未納や介護給付費の見込みを上回る伸びなどにより、介護
保険財政の財源に不足が生じた場合に、当該市町村の一般会計からの繰入れを回避する
ため、市町村に対し資金の貸付け・交付(以下「貸付等」という。)を行うものである。
都道府県では、介護保険の国庫負担金の算定等に関する政令(平成10年政令第413号。
以下「算定政令」という。)に基づき、市町村から財政安定化基金拠出金(以下「拠出
金」という。)を徴収し、徴収した金額の3倍に相当する額を安定化基金に繰り入れる。
また、国は、都道府県が繰り入れた額の3分の1に相当する額を財政安定化基金負担金
(以下「国庫負担金」という。)として負担することとなっており、その額は12年度から
18年度までの間で、計575億余円となっている。
各都道府県では、拠出に当たり、管内市町村における3年間の介護給付費の見込額の総
額に対し、国が標準として定めた割合(以下「標準拠出率」という。)を参考にして条例
で定めた割合(以下「拠出率」という。)等により拠出金を算定する。
安定化基金の貸付けは、事業計画に基づく見込みを上回る介護給付費の増加や第1号保
険料の未納などにより、基金事業対象費用額が基金事業対象収入額を上回ると見込まれ
る市町村に対し、算定政令に基づき算定した額を限度として貸付等するものである。そ
して、安定化基金から貸付けを受けた市町村は、原則として次期計画期間の3年間で、貸
付金を償還することとなっている。
2 検査の結果
今回、国庫負担金について、有効性等の観点から、安定化基金の基金規模は過去の貸
付等状況及び将来の基金需要見込みからみて適切なものとなっているか、都道府県が設
定した拠出率は将来の基金需要見込みを反映した適切なものになっているかなどに着眼
して検査した。
( 1) 24都道府県における安定化基金の造成、貸付等の状況
292億余円、第3期( 18年度) 82億余円で、第1期から第3期( 18年度) までの造成額合計( 第1
期、第2期の交付額を除く。) は1693億余円となっており、うち国庫負担金の額は、第1期
452億余円、第2期96億余円、第3期( 18年度) 26億余円、計575億余円となっている。
また、安定化基金からの貸付等額は、第1期247億余円、第2期334億余円、第3期( 18年
度) 5億余円となっている。
そして、24都道府県における各期の造成額に対する貸付等額の割合は、第1期は18. 2%、
第2期は20. 3%となっている。また、この割合は、都道府県間で相当のばらつきがあり、
第1期の最高は沖縄県の88. 0%、最低は埼玉県の0. 0%、第2期の最高は長崎県の76. 6%、
最低は福井県の0. 0%となっている。
( 2) 標準拠出率及び拠出率の設定状況
厚生労働省では、次のような算定の考え方により標準拠出率を設定していた。
第1期は、実績のない中で算定することから、すべての市町村で、普通徴収が見込まれ
る第1号保険料の2%に相当する収納不足が生じ、かつ、介護給付費増により全国の2割の
市町村で介護給付費の2割、3割の市町村で介護給付費の1割に相当する財政不足が生ずる
場合などでも対応可能な水準として標準拠出率を0. 5%と設定した。
第2期は、第1期中途までの実績に基づく第1期の貸付等見込額に、第2期の介護給付費
見込額の伸び率(30. 8%)を乗じて貸付等見込額を算出し、この額から控除すべき貸付金
の償還見込額については、第1期に貸付けを受けた全市町村が9年間の償還延長措置をと
った場合を考慮するなどして標準拠出率を0. 1%と設定した。
第3期は、第2期の次年度である16年度時点の貸付状況が、第1期の同時期を上回ってお
り、今後も貸付額が増加すると見込まれたこと、第3期においても第1期の貸付金の一部
が償還されないこと、安定化基金に積み立てた額の大部分を貸付等している都道府県が
あり、積立金に不足を生じる恐れがあることから、第2期と同じ標準拠出率を0. 1%と設
定した。
そして、24都道府県では、第1期は、すべてが標準拠出率と同じ率の拠出率としていた
が、第2期以降は、新たな拠出を行わないこととしたり、独自に標準拠出率より低い拠出
率を設定したりしていた都県がある一方で、14道府県では、次のようなことから、第2期、
第3期の拠出を標準拠出率と同じ0. 1%で拠出していた。
① 2府3県では、第1期、第2期の貸付等割合が高かったことなどから、第2期、第3期にお
② 2県では、第2期及び第3期に保有する基金の規模を、第1期と同水準必要であるとして、
第2期及び第3期の拠出率を0. 1%としていた。
③ 1道6県では、自ら適切な拠出率を算出することが困難であるなどとして、第2期及び
第3期の拠出率を標準拠出率と同じ0. 1%とした。
( 3) 貸付等を受けた市町村及び貸付を受けなかった市町村
24都道府県において第2期から第3期18年度までに貸付等を受けた市町村数は、次表の
とおりであり、第2期では延べ3, 753市町村のうち貸付けは延べ425市町村、交付107市町
村となっていた。
区 分 第2期 第3期
15年度 16年度 17年度 計 18年度
全市町村数( 各年度末現在の数) 1, 502 1, 273 978 3, 753 973
うち貸付市町村 91 151 183 425 10
うち交付市町村 107 107
うち貸付等を受けなかった市町村 1, 411 1, 122 779 3, 312 963
上記のうち検査市町村 591 519 337 1, 447 506
第2期に貸付けを受けた延べ425市町村の多くが、貸付けを受けた理由として、居宅サ
ービスの利用が計画を上回ったことを挙げており、そのサービスの種類別では、多い順
に通所介護、認知症対応型共同生活介護、訪問介護などを挙げている。
そこで、この上位3サービスにおける介護給付費見込みと実績とのかい離率についてみ ..
ると、通所介護25. 4%、認知症対応型共同生活介護56. 9%、訪問介護8. 6%と実績が見込
みを上回っていた。また、介護給付費見込額を実績額が上回った額( 以下「開差額」とい
う。)についてみると、3サービスの開差額計は1586億余円で居宅サービスの開差額197
5億余円の80. 3%を占めていた。このことから、これら3サービスの介護給付費の実績額
が見込額を大きく上回ったことが、これら市町村が貸付けを受ける大きな要因となった
と認められる。
また、第2期において、3年度連続して貸付けを受けた25市町村に対する貸付額は計11
0億余円で、同時期に貸付けを受けた延べ425市町村に対する貸付額計301億余円の36. 5%
を占めており、このような市町村の安定化基金に対する影響は大きいものとなっている。
( 4) 第3期の造成等見込額と貸付見込額等
24都道府県の第3期の造成見込額合計は、235億余円、第1期から第3期までの造成見込
額合計( 第1期、第2期の交付額を除く。) は1846億余円、うち国庫負担金見込額は第3期7
7億余円、第1期から第3期までの合計は626億余円となる。また、24都道府県のうち17都
2期の貸付等実績額合計306億余円の約1. 4倍の額となっている。
そして、今回、検査対象とした516市町村の18年度の介護給付費見込みと実績とのかい ..
離率は、居宅サービスが−4. 6%、地域密着型サービスが−21. 6%等で、サービス全体で
は−6. 4%と実績が見込みを下回っていた。特に制度改正により開始された地域密着型の
各サービスのうち第2期に貸付等の主な理由としてあげられた認知症対応型共同生活介護
のかい離率は、1. 5%でほとんどなくなっている。 ..
また、第2期で貸付等を受けた主な理由に挙げられた3サービスの介護給付費実績額に
ついて18年度の対前年度伸び率は、認知症対応型共同生活介護が23. 4%、通所介護が0.
6%、訪問介護が−4. 5%であり、第2期の17年度の対前年度伸び率、それぞれ36. 4%、1
2. 8%、2. 4%等と比べ、いずれも低減している。
検査対象とした516市町村の第3期( 19、20両年度) に貸付等を受ける予定の有無につい
て調査したところ、貸付等を受ける予定はないとしたのは443市町村、貸付等を受ける予
定であるとしたのは34市町村となっていた。
また、第3期初年度の18年度に貸付けを受けた10市町村のうち、引き続き19、20両年度
に貸付等を受ける予定があるとしているのは9市町村となっており、第2期の24市町村に
比べ3年度連続して貸付けを受ける可能性のある市町村は減少する見込みとなっている。
これらのことなどから、第3期における貸付等額は、第2期の実績を大きく上回ること
はないと思料される。
( 5) 第1号被保険者1人当たりの17年度末現在における拠出金負担額
24都道府県の第1期、第2期造成額合計は1644億余円で、この額から、第1期の貸付残額
87億余円と第2期の貸付等額334億余円を除くと、17年度末現在で貸付等されなかった安
定化基金の額(以下「未貸付等基金」という。)は1222億余円となる。
そして、この未貸付等基金1222億余円のうち3分の1は市町村が拠出した額(以下「未
貸付等拠出額」という。)で、これをそれぞれ、24都道府県の17年度末現在の第1号被保
険者数で除した第1号被保険者1人当たりの未貸付等拠出額は、24都道府県の平均で2, 33
9円、最高額は沖縄県の5, 408円、最低額は長崎県の451円となる。
( 6) 安定化基金の基金規模について
安定化基金の造成は、第1期においては、各都道府県で標準拠出率等により行われたが、
実際の貸付等割合は24都道府県のうち17都道府県で30%を下回っていた。そして、第2期
府県でも、十分検討しないまま標準拠出率を採用するなどしていて、貸付等割合は24都
道府県のうち19都道府県で30%を下回っていた。
そして、第3期においては、初年度の貸付けが第2期と比較して件数、金額とも大きく
減少していること、認知症対応型共同生活介護等サービスの見込みと実績のかい離がほ ..
とんどなくなっていることなどから貸付等は減少すると思料される。
これらのことから、現在、安定化基金の保有額は多くの都道府県で基金需要に対応し
た規模を大きく上回り、国、都道府県及び市町村が拠出した財政資金が効果を十分発現
することなく保有されている事態になっていると認められる。
そして、このような状況において、24都道府県のうち10都府県において、現在保有す
る基金のうち、各都道府県が貸付等のため当面必要と考える基金規模を上回る部分につ
いては、財政資金の有効活用を図るという考え方から、拠出者に返還することが可能と
なるような制度改正があれば返還等を検討したいなどとしている。また、14道府県にお
いて、第1期、第2期の貸付等割合が高率であることや、大規模市の保険財政が悪化した
場合における貸付財源を確保しておく必要があり、どの程度の基金規模が適切か不明で
あることなどから、現時点では返還等は考えていないとしている。
( 7) 改善を必要とする事態
前記のとおり、安定化基金の規模は、現在、基金需要に対応した規模を大きく上回る
ものとなっている。そして、安定化基金の貸付金は、次期計画期間に必ず償還されるこ
となどから、必要な基金をいったん造成すれば、その後に追加して造成する必要はない。
したがって、都道府県においては、それぞれの貸付等の状況等を考慮するなどして、保
有する必要のある基金の規模を明確にし、その必要とする規模を上回るなど当面使用す
る見込みのない基金については、拠出者へ返還するなどして、その財政資金の有効活用
を図る必要がある。
しかし、現行制度においては、基金規模に余裕があっても拠出者に返還するなど基金
規模を適切な規模に調整する仕組みとなっていないため、このまま推移すると第3期以降
も多額の未貸付等基金が継続して生じ、国、都道府県及び市町村が拠出した財政資金が
効果を発現することなく保有されることとなり、このような事態は、改善の要があると
3 本院が要求する改善の処置
厚生労働省において、都道府県の安定化基金を適切な規模に保つよう、次のとおり改
善の処置を要求する。
ア 多額の未貸付等基金が発生し、都道府県が基金の一部を拠出者に返還することが適
切と判断した場合に、基金規模を縮小できるような制度に改めること
イ 標準拠出率の算定の考え方を都道府県に対して明確に示すとともに、各都道府県が
拠出率を設定する際に基金の保有状況、貸付状況等を十分に検討するなどして適切な